娘を殺された母親であり教師の森口の復讐劇。殺した生徒は徐々に追い詰められていく。しかし、森口は冒頭で犯人をほのめかし、幾つかの仕掛けを残して辞職する。
冒頭で復讐は完遂されたのかもしれない。しかし、その仕掛けが後のページで展開されていく。
犯人が分かっても警察に届けなかったのは、13,4歳では逆に司法に保護され裁かれないためだ。
さすが本屋大賞や、amazonコメント、読書メーターの感想の多さから、読み応えがある本だった。
森口先生、修哉、直樹、母親、美月、寺田、それぞれの視点で、それぞれにとっての現実が語られる。同じ場面のはずなのにその現実は微妙に違う。
例えば自動車事故の加害者と被害者では語られる言葉は違う。
我々は『世界はこういうものだと』と信じている(打ちのめされるようなすごい本、米原万里p144)
別に本の引用を出すまでもないけど、自分が認識している世界が、唯一揺るぎない現実と信じている。
しかし、「告白」ではそれがあっさり覆される。「カラフル」森郁恵でも、違う魂が入ったら違う世界が現れた。
ところどころ周囲への優しさを見せるが息子を壊れてしまったと思う母親と(客観)、
なんとか自分を保とうとする直樹(主観)、
家庭訪問のとき母親が殴られているという記述(客観)、その結果起こること。
倫理観のかけた動物殺しで才能をひけらかしたい修哉、しかし修哉にしてみれば別の動機という真実がある。
そういう捉え方の違いが現実を進行していくのが面白かった。
学校、いじめという馴染みのある話で、話にもすんなり入っていけた。
反面、どの人物も、自分だったらしないだろうなという行動。復讐の仕方とか、工作物で悪戯とか、生徒を励まして青春するとか、感情移入は無かった。淡々と週刊誌を読みような(amazonのコメントにあった)感じ。娘を殺されたのに、引き裂かれるような痛みは感じない。どこか映画の「ランボー」を見ている感覚。
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